3. 特徴ある生物活性を持つ有機分子の設計・合成の研究
膜タンパク質と相互作用するケミカルモジュレーターのデザインと合成.
生体機能調節解明への挑戦
リン脂質を基盤とした膜タンパク質と相互作用するケミカルモジュレーターのデザインと合成・生体内ターゲット分子の探索
リゾホスファチジルセリン(リゾPS)はマスト細胞の脱顆粒促進や細胞遊走活性を示す内在性生理活性脂質である。前者の観察がなされて(Martin el al, Nature,1979, 279, 250-252.)以来、この現象、すなわちリゾPSによる即時型アレルギー反応(花粉症など)の促進の分子機構は未解決のままであった。この生体内物質の構造を元にデザインした化合物はlysoPSの活性を凌駕するスーパアゴニストになり、最近提唱されたオーファンGPCRの1つであるGPR34ではない、脱顆粒に関する未知の受容体の存在を明らかにしました。本テーマは生体内ターゲットタンパク質を探索する際にも、そのタンパク質の機能を解明するためにも有効な分子ツールやシード化合物を提供できると考えています。継続してリゾPSに注目した分子設計研究を継続的に研究していきます(図6)。
図6 様々な生体機能を担う内因性リガンドであるリゾホスファチジルセリン(リゾPS)の構造
【関連する研究成果】
Iwashita, M.; Makide, K. et al J. Med. Chem., ,2009, 52, 5837–5863.
イオンチャネル(カルシウム活性化電位依存性カリウムチャネル)開口調節分子の創製と開口機構の研究
イオンチャネルは古くから創薬のターゲットであり,チャネルの開閉を制御する様々な小分子が開発されてきました。しかし内在性リガンドのないイオンチャネルに対して一般に応用可能な分子設計戦略がなく,またその戦略を評価応用するケミカルバイオロジー手法が進展していないため、有効な小分子の探索と同定には多大な労力と時間が必要とされてきました。チャネルの開閉を制御に有効な有機分子の効率的な開発のためには生理的な刺激に対するチャネルの開閉機構などの知見に基づいた設計戦略が必要ですが、それら機構の多くは依然未解明です。
私たちは、現在、複数のイオンチャンネルやトランスポーターに関心をもち研究を行っています。その一つに細胞内カルシウムによる活性化を受け、かつ電位依存性カリウムチャネルの1つであるBKチャネルがあります。BKチャネルは、開口による大きなコンダクタンスを示すため細胞膜電位の安定化に大きな寄与をしていると考えられており,平滑筋や神経における興奮制御に関わっていると考えられています。BKチャネルは細胞膜の興奮によって流入するCa2+濃度の上昇と膜電位の上昇に対応して開口して、細胞内からK+イオンを流出させ膜の興奮を抑制させるCa2+活性化カリウムチャネルの一種です。Ca2+活性化イオンチャネルにはクロライドチャネルなどもあり、創薬ターゲットになりうるだけではなく生体での役割も未解明なチャネルです。BKチャネルを化合物による開口を実現することにより、化合物による脳・神経や平滑筋の興奮制御が可能になるかもしれません。
私たちは, BKチャネルを開口させる新規な化合物群としてピマラン型テルペン類(ピマル酸)を発見しました。さらにデヒドロアビエチン酸がBK開口活性を示すことが分かりました(図7)。現在、ピマル酸はBKチャネルの標準オープナーとして世界的に認められ用いられています。
図7 創製したBKチャネル開口活性物質
今まで最もBKチャネル開口活性が強いとされてきた化合物の1つであるNS1619と比べて2倍近く活性を上回る化合物(CYM004)の創製に成功しました。 この発見をもとに新規かつより高活性な開口分子のさらなる創製ならびに生理活性について研究を行っています。私たちが創製した分子の作用の分子機構の解明にも興味を持っています(図8)。
図8 BKチャネル開口活性機構の提案:通常想像するチャネル内部TM5-TM6とは全く異なる結合サイトを提案した。S6-RCK1リンカーが化合物の結合で短くなってS6を引っ張り、開口する。
【関連する研究成果】
Gessner,G. et al. Proceedings of the National Academy of Sciences of the U. S. A., 2012, 109, 3552-3557.
Cui, Y.-M. et al Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters, 2008, 18, 6386-6389.
Ohwada, T. et al Bioorganic Medicinal Chemistry Letters, 2003, 13, 3971-3974.