有機分子の構造と機能の融合:機能の合成
私たちの研究目標は新しい有機化学現象の発見とその一般性の検証と特徴ある機能ある物質(特に生物活性にかかわる機能)の創製を研究課題にしています。それぞれは関連がないように見えますが、新しい有機化学現象と機能ある物質の創製のインテグレーション(融合)を目指す研究を開始しました。すなわち「機能の合成」です。つまり新しい構造をもつ分子は新しい機能を創出すると考えています。機能は分子全体の形が作り出すと考えられます。独自の分子化学(molecular chemistry)を探求することになります。
新しい化学現象の発見として、本来平面構造を取るアミド及び関連官能基が非平面化する現象の発見を中心とする有機構造化学を基礎に置いた有機構造論の展開と超強ブレンステッド酸中で同一分子内に複数の陽電荷を持つジカチオンの生成の容易さの発見とその分子種が発揮する革新的な芳香族化合物の官能基化能を中心とする有機反応論を中心課題としています
これらの純粋な基礎化学は、一見なんら機能に結びつかないように見えるのですが、前者は、タンパク質の作るヘリックス構造とそれに関連する生体機能調節、一酸化窒素という最小分子量の生体内情報伝達物質の代用物質、後者は酵素反応を連想させる巧妙な結合ネットワークに基づく反応活性化の概念につながることに気がつきました。新しい構造が新しい機能を生み出すことを驚きをもって実感しました。
分子の新しい構造(形)が,化学反応性、結合特性、構造特性、生物活性などの物質の機能にどのような影響を与えるかの原理を追求するとともに,その原理を利用して機能の最適化や新しい機能を化学合成によって創造することは夢であり喜びです。一方、私たちは常に「なぜ」そうなるのかという疑問を持ち、現象の単なる羅列を超えた概念の獲得に魅力を感じています。
私たちの三次元構造の認識能力や電子構造に対する想像力には限界があるため,理論計算化学を利用した計算実験にも積極的に取り組み、実験結果と組み合わせて私たちの新しい化学概念の獲得に活用しています。